(承前)
Tは仲間うちでは「カントク」と呼ばれていた。LAのカレッジの短期留学で映画の勉強をして、帰国後はあちらの大学で映画の勉強を続けるために、仕事をやりながら僕らのイベントの撮影をやって、映画監督を目指していたからである。
夢を追い続けるのはむずかしい。
会場であった昔の仲間の中で、昔と同じ仕事をやっていたのは、日本舞踊の先生のヤッコさん、今やエレクトロブギーというダンスの第一人者となりヨーロッパで大活躍、デンマークのロイヤルファミリーの天覧も受けたというダンサーのモリ君、しぶとく自分の職業にこだわり続けたおかげで、銀座ナンバーワンのマジックバーのメインマジシャンとなれたこの僕、鬼喜王子の三人だけだった。
リーダーでシンガーソングライター兼ラッパー兼ダンサーのKは噂によると、カタギの仕事をしているらしいが音信不通。凄腕のDJ、K(上記のKとは別人)は日本で2番目の腕前で、あのころクラブでブイブイいわせていたにもかかわらず故郷にかえってしまったらしい。深夜番組とはいえ、テレビのレギュラーをもっていたダンサーのYは、とあるタレントの付き人をしているらしい。
夢を追うのはむずかしい。
カントクも自分の夢に見切りをつけて、某IT企業の有望社員としての道を選ぶこととなった。
いちばん仲のいい仲間だっただけに、僕はとても寂しい気持ちになった。でもカントクが最後にみんなの目の前で恥ずかしげもなく、彼のかわいい奥さんに言った言葉で救われた。
「僕は映画をやるという夢は多分この先あきらめざるをえなくなると思います。でも今の僕はもう一つの夢、目の前の君を幸せにするということに一生頑張ります。これからもよろしくお願いします。」
奥さんは泣いていた。会場は大きな歓声と拍手に包まれた。
そして僕は…、夢を追い続けることができた自分の幸運と、それゆえに僕が手に入れられずにカントクが手に入れたものを思って、ワイングラスをあおった。
BGM:スガシカオ 「ココニイルコト」