鬼喜王子です。
平家物語よりも昔から、世の中は諸行無常、変わらざるものはないものである。
それでも僕たちは今目の前にあるものを永遠であると信じ、それに依存して生きている。そしてある日それに裏切られて傷つくことになるのだ。
親は年老い、いつかは死んでしまう。恋人同士が出会った頃の、熱い気持ちのままでいられることはまれである。勤めている会社は、どんなに羽振りがよくても明日倒産するかもしれないし、住んでいる家はいつ地震が来て倒壊するかもしれない。
とまあ、毎度大げさな書き出しで始まってしまったが、例によって話はたいしたことはない。今回「いつもと同じ」と思い込んでしまったがための被害総額=数十円である。
毎週月曜日、僕は銀座にある事務所から四谷三丁目にある八時までタクシーで移動する。降りるところは四谷三丁目交差点手前にある信号で、「vodafone」の看板を目印にしている。この看板は赤くて目立つので、ボーっとしていても見逃すことはない。
その日もタクシーの中で今日のことを考えながら過ぎ行く街並を眺めていた。
ふと気がつくと降りるポイントを過ぎている。あわてて止めてもらってタクシーを降りた。いつもよりメーターが数十円高い。
いつも降りるところに行って見ると赤くて目立つ「vodafone」の看板が無かった。変わりにあったのは白くて周囲の風景に溶け込んでしまっている「SoftBank」の看板。
今年の正月に「三菱東京UFJ銀行」がいきなり登場したときもびっくりしたが、看板が変わると、こんなに街の表情が変わるとは。
そう、変わらざるものなどどこにも無いのだ。でも変わっていく速度が昔より速くなっているような気がするのは、年をとったせいだけではないだろう。